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例えば生物や物理に比べて、有機化学という分野がどのような対象を取り扱うのかについて、一般にはそれほど知られていないのではないでしょうか。
有機化学は、薬学部・理学部・工学部・農学部、ほとんどの理系学部にまたがる一大ジャンルです。
ですから、「有機化学を学びたい」と考える人は、上記のどの学部に進んでもいいわけです。
有機化学がなぜそれほど膨大なジャンルなのかというと、それは私たちの生活に欠かせない学問だから。
有機化学が対象にするのは文字通り「有機化合物」です。
「有機化合物」とは炭素を含む化合物の総称で、例えば私たちの体を構成しているタンパク質も有機化合物の一種。
これに対して、金属などは「無機化合物」といいます。
有機化学は、この「有機化合物」を分析したり、化学的に合成したり、その安全性を追求したりする学問です。
このように膨大な対象を取り扱う有機化学ですが、それぞれのジャンルによって研究の目的が違ってきます。
以下に、大学の各学部における有機化学の特徴をまとめてみます。
おそらくもっともイメージしやすいのが薬学部における有機化学ではないでしょうか。
薬はそのほとんどが有機化合物でできています。
薬学部では、新しい薬の開発やその安全性を検証・研究するために有機化学が役立っています。
言い換えれば、有機化学が薬学の発展に寄与しているわけです。
工学部でも有機化学は、自分たちが作り出すものに役立っているイメージです。
新しい機械製品を作るとき、さらにそれを進化させるために、有機化学の研究は欠かせません。
また、何かを作り出す時にいかに効率よく作るか、という研究も有機化学の対象になります。
農学部では、対象が植物や動物といった生物になってきます。
農業や畜産業、林業などに有機化学の研究が活かされていきます。
例えば、害虫対策や品種改良、食糧自給の問題、栄養価の高い食品の開発など、こうした私たちの生活に直結したテーマに興味がある人は、農学部で有機化学を専攻するとよいのではないでしょうか。
これまでご紹介してきた3学部が「現在から10数年先の社会で役に立つ」研究をしているのに対して、理学部での有機化学研究はもう少し先、「未来の人類のための」研究という側面が強くなってきます。
今すぐに製品化するようなものではないが、100年先の社会に役に立ち、さらにそのあとの100年の科学の発展に寄与するような研究。
というと、なんだかとてもロマンがありますね。
こうした「将来の科学の発展に寄与したい」という夢を持って有機化学の研究に従事したい人は、理学部に進むのがいいかもしれません。
有機化学には様々なジャンルがありますが、特に大きな2つのジャンルがあります。
それが「反応有機化学」と「合成有機化学」です。
有機化合物の反応とその過程を研究するのが「反応有機化学」です。
一つの料理を作るのには多くの工程が必要であるように、一つの製品(薬、プラスチック、色素、香料など…)を作るのにも多くの反応が必要です。
より便利で効率的な反応を作り出すのが、「反応有機化学」なのです。
2010年にノーベル化学賞を受賞した「鈴木・宮浦カップリング」は、液晶や医薬品を合成するための画期的な反応として、多くの有機化学者に計り知れない恩恵をもたらしています。
有機化合物の様々な合成方法を研究するのが「合成有機化学」です。
植物や生物が合成した化合物である天然化合物を、人間の手で合成しているのがこのジャンル。
例えば量が取れない天然化合物を人工で大量に作れるようにしたり、合成した天然化合物を異分野の研究に役立てたり。
合成有機化学は「有機化学の花形」と呼ばれることもあるように、直接社会に貢献できる研究の宝庫と言えるかもしれません。
大学で有機化学を研究したいという人は、どの学部に進んでも有意義で興味深い対象がたくさんある、ということがおわかりいただけたでしょうか。
自分が興味のあるジャンルで幅広い視野を持った研究ができるように、自分でも色々と調べてみてください。
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