猫の手ゼミナール執筆の書籍が出版されました! 詳細はこちら

元サントリー取締役からのメッセージ

「結果には、本当に原因があるか?」

 

と問われれば、一定の知識と知性を備えた学生は「そりゃあるでしょう」と答えるに違いない。

そして、「それを理解するために勉強しています」と続けるかもしれない。学生以外のほとんどの社会人もそう思っている。メディアを賑わす悲惨な人災事故が発生すると、被害者は「このような事故が二度と起こらないよう、事故原因を徹底的に究明してほしい」と述べ、当事者は「原因を分析して対策を打ち、二度と起こさないことを誓います」と頭を下げる。両者とも「結果には原因がある」のは当然と考えている。

 

ところが、膨大な原因分析作業の結果、唯一の原因が明確になりました、などという単純明快ストーリーは滅多にきかない。それは政府や国会等が膨大な費用と人材を投入して調査分析した福島原発事故調査委員会の3つの報告書を読んでも分かることである。専門家がどれだけ分析をしても一つの原因に収斂せず、委員会の数だけ分析結果と対策は出てくるのである。

 

若い皆さんは、リンゴが落ちるのは万有引力があるから、といった分かり易い論理を見いだせない社会で生きていかなければならないことを認識/覚悟する必要がある。

 

原発事故のような大規模災害でなくとも、今やあらゆる問題が同じ土俵上にある。分析⇒原因解明⇒原因除去対策⇒問題解決というストーリーが不可能となったのが現代である。結果の原因は多数で且つ超複雑化し、人間の理解力の限度を超えている。

それよりも「分析」には限界があることを認め、有効な対策の発想とそれらを総合的な計画にまとめあげて実行することにこそ、より多くのエネルギーを結集すべきである。が、その思考革新を阻害する思い込みの第一が、我々の脳に深く刷り込まれた「デカルト思考」(ものごとはすべて要素に分けて分析し、それを総合すればよい)ではないだろうか。「分析」は最終成果よりも論理展開の正しさを重視する、「総合」は非論理的側面(創造)を歓迎し最終成果を重視する。分析得意人間にとって有利な受験成績偏差値が高い人間の脳には、当然分析癖が刷り込まれている。その脳に劣等感を抱く圧倒的多数派の一般人も、同じ思考癖の持主といえる。

 

分析内容や調査資料を手に入れることができず、手に入れても十分理解できない多くの人々は、「専門家が原因分析して対策を講じたのに事故が再発するのは、人間は皆怠惰であり、責任者が厳しく見張っていないといい加減に仕事をするから」と考えてしまう。それは責任者のやる気と責任感を最重要且つ唯一の原因とみなすことにより、責任(者)の明確化と追及に異常な関心を示す日本特有の社会現象を生み出している。大事故はすべて、現代の高度に発達したマンマシンシステムの中で発生しているにもかかわらず、責任者の処分に関心が集中し、機械や情報システム、組織や作業環境等の重要要因を軽視することにより、有効な対策が二の次となってしまっている。

 

社会をよりよくするのは「総合」的対策の実行以外にない。しかも限られた時間内に実行しなければ意味がない。デカルト以来の四百年間は、「分析」を十分行えば「総合」は簡単な時代であった、ともいえる。皆さんの脳と心に巣食っているデカルト思考の呪縛を解き放ち、「総合」力を強化する訓練(これについては別の機会に!)と努力を勧めたい。

 

 

≪略歴≫橋本忠夫(はしもとただお)

京都大学工学部(数理工学専攻)を卒業後、サントリー入社。

戦略システム部長、ビール事業部企画部長、木曽川工場長、商品開発研究所長、バイオライフサイエンス事業本部長、SCM本部長、取締役、サントリー食品工業(株)社長、サントリーロジスティクス(株)取締役会長を歴任。

(サントリー以外では)丸和油脂(株)取締役副社長、PCCテクノロジー社長などを歴任。

2008年 多摩大学大学院経営情報学研究教授・研究科長。

2014年 公益財団法人丸和育志会専務理事。

 

≪著書≫

  • 『変革型ミドルのための経営実学 「インテグレーションマネジメント」のすすめ』芙蓉書房出版、2010年12月24日。ISBN 978-4-8295-0500-7
  • SCM担当役員のワークデザイン(2005原田保編著「戦略的ロジスティクス経営」)
  • ロジスティクスの戦略的定義/サプライチェーンロジスティクスへの転換(2005 ロジスティクスシステム学会論文集)

\無料相談実施中! /

この記事を書いた人

大学生の単位取得をサポートするための個別指導を提供しています。

大学や生徒のレベルに合わせたカスタマイズされた学習プランで、単位取得を効果的にサポートします。

生徒とのコミュニケーションを大切にし、彼らの学習の進度や状況を把握することで、適切なサポートを提供できるよう努めています。

目次